引き算で不利条件をつぶせ

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●不必要な【足し算】を選択してはいけない

私は「引き算の健康学」に強い関心があります。
健康のために良いものを摂るのは重要なことですが、まずは「良いものを摂った時に、その効果が発揮されやすい身体にしておく」ことも重要です。

料理でいえば下ごしらえ。仕事でいえば段取り。運動でいえば準備体操。
昔から事前準備の重要性は強く認識されていますが、体内環境のリセットに関していえば、まだこれからのものと言えるでしょう。

「調子が今いちだな」と感じたときは、無理に食べて消化の負担をかけるより、しばらく食事を休みにしたほうが良いといわれています。

しかし残念ながら、減らすより増やす方が購入やサービス利用を伴い、経済的なインパクトが発生するので、一般的な商習慣の中に生きていると、必ず【足し算】のほうへ誘導されます。

お金を使ってうわべの元気と引き換えに体内環境を悪化させ、ごまかしが効かなくなるとさらに【足し算】する悪循環にハマる人は多いでしょう。

そして、職場環境に重大な影響をもたらす『基幹システム』の考え方も同様に、【足し算】で考えて会社をがんじがらめにしてしまうことが多々あります。

すでにキャパシティ限界の業務現場に、システムという異物を挿入するダメージが冷静に計算されている組織を、私は見たことがありません。

「これを導入(摂取)すれば良くなる(健康になる)」という効果効能だけに注意が向き、消化吸収が見込みどおりに行える状態かどうかは考慮されません。

経営トップがシステム化の検討を命じたとしても、それが「システムを買え」という意味なのかどうかこそ、真の検討事項のような気がします。

●あなたは「したいこと」を具体的に説明できるか?

「導入したいシステム」を言い換えると、「したいことが簡単にできるツール集」です。

それを他人に作らせたいなら、したい事柄とその手順を、ひとつひとつ具体的に説明できなければなりません

ドラえもんから説明されるまで、その道具によって自分の願望がどうやって叶えられるか分からない「のび太君」と同じレベルではいけません。

しかし、SIer(システム会社)の営業マンから「ERP」だの「RPA」、はたまた「DX」「IoT」などといった言葉をまくし立てられると、自分はのび太のままでよいのだと思いこまされてしまいます。

「よくわからんが、システムが入れば今より便利になるらしい」と。

とにかくSIerと話していると、アイテムが増えれば守備範囲も広がり、質も上昇するという前提で話が進みます。

「そんなに多くの機能があっても、どうせ使いこなせないよ」
誰かがそう水を差しても、そのくらいSIerは百も承知です。

それに、社内には「多機能の否定者」がいる一方、「多機能の信奉者」もいます。

部下の統制に不安を持ち「システムの機能で人間関係のわずらわしさから解放されたい」と切に願っている管理職は、むしろ多機能にすがりたい。

結局、クライアント内で意見が分かれて開発スケジュールが遅れてきます。

そもそも、足並みそろえてシステム導入プロジェクトを実施できる会社はあまり無く、スケジュールは最初からギリギリなことが多い。

だから、プロジェクト開始後に余計なことを言い出す人間が出ないように、関係者には事前にネゴしておきます。

つまり、全員が一堂に会したときには既に大枠が決定していて、今後、決めた枠組みに影響するような新事実が明らかになっても、大幅な変更は却下されると思ったほうが良い。

しかし、システムで本当に実現したいことは、部門長ではなく末端の実務担当者が知っています。
彼らの目と手、そして気の働きこそが「したいこと」の根幹のはずです。

「システム化」とは彼らの話を根気よく聞き取り、業務プロセスの改革が為されることが、最初に経営トップが発した「システム化を検討しろ」という言葉の真のニーズだったはずです。

黙っていればクライアントが勝手に内輪もめし、制限時間に迫られていくのであれば、SIerはむしろ大いにもめて欲しい。

こまったプロジェクトマネージャーが『商談』ではなく『相談』してきたときほど拡張機能のプレゼンが決まりやすく、利益は大きくなることが目に見えているからです。

事前準備の本質を見誤ったツケが、システム会社への支払額に大化けするでしょう。

●引き算で得られる大きな価値

上手くいった「システム化」とはどんな姿をしているのか?

こういう経験をしている企業も多いでしょう。

ずっと使っていた器具のメーカーが倒産して再調達できなくなってしまい、代替手段をルーティンワークにするとします。

そのときは経験知を総動員し、現状に合わせてノウハウが組み合わされるでしょう。

モノを失ったからこそ、メンバーの中に眠る知力が活性化され、大きな価値を生みだせたのです。

『欠乏』にはそんな役割があります。
いつもあったものが無くなったからこそ「使われていなかったリソースの掘り起こし」にスポットが当たります。

これは、人体にも同じことが言えて興味深いです。
ファスティング(断食)のことを調べていて面白いなと思ったのが、絶食した時のエネルギー調達方法です。

絶食するとエネルギー供給が断たれますが、脳の栄養確保は絶対で、最優先事項になります。
糖分⇒アミノ酸⇒脂肪の順に体内資源が使われますが、そういった一般的な取り崩しが終わった後は『生命活動に不要な資源』に手を付け始めるそうです。

たとえばドロドロ血の『ドロドロ』や、『血管内にこびりついたドロドロの塊り』などは、普段の生活をしていると健康を害する悪玉の象徴ですが、断食という非日常の環境では正負が逆転し、脳の活動を支える善玉に変身します。

そのままの状態がある程度維持されると、通りの良くなった血管に、サラサラ血液が流れるようになるそうです。

大変結構なお話ですが、これは狙って起こせる作用ではありません。

例えば血管のとおりを良くするための、コレステロールを溶かす薬物というのはありますが、これは筋肉にも作用してしまうそうです。
筋肉が増え続けてうちならともかく、老人などが常用すると危険かもしれません。
これも【足し算】による問題といえそうです。

話を人体から組織体に戻しますが、すでに得ているもので現在の問題解決が図れるなら、新しいものの取得より、今ある資源や能力の活かし方を知ることが重要です。その過程で必然的に人間関係の見直しも行われます。

「足し算前提」から一旦思考を引き離すだけで、引き算の効用に目が向きやすくなり、それが実力アップと経費節約につながることを、是非意識してみてください。