引き算の【法人】健康学

私は「引き算の健康学」に強い関心があります。
健康のために良いものを摂るのは重要なことですが、まずは「良いものを摂った時に、その効果が発揮されやすい身体にしておく」ことのほうが、より重要だと思います。

料理でいえば下ごしらえ。仕事でいえば段取り。運動でいえば準備体操。
「細工は流々、仕上げを御覧じろ」なんて言葉さえあるくらい、昔から事前準備の重要性は強く認識されていますが、体内環境のリセットに関していえば「デトックス」なんていう横文字の登場を待たなければならないほどなおざりにされてきたし、その言葉も主に女性がターゲットのものですから、まだこれからのものと言えるでしょう。

「なんだか調子が今ひとつすぐれない」と感じたときは、無理に食べて消化のために身体に負荷をかけ続けるより、しばらく食事を休みにしたほうが良いといわれています。
自分の体が自動的に行ってくれる至適な体内調整に委ねて回復を待ち、それが済んでから健康的な食材を美味しくいただくほうが、体には深い満足が得られ、継続的な活力が生まれるようです。

これは、部屋の片づけにも同じことが言えると思っています。
物があふれて散らかった部屋に、便利な収納グッズは効果的と思うかもしれません。
しかし収納グッズを買い入れることは、さらにモノが増えることでもあります。
部屋が散らかる原因は、一言でいえばモノの持ちすぎです。管理の限界を超える分量だからもて余すのです。
あなたの部屋にはあなたに属するモノがたくさんありますが、その中で最も価値が高いモノは「あなたの動線」という気がします。そしてそれを生み出すためには、持ち物はむしろ減らしたほうが効果は確実です。

しかし残念ながら、減らすより増やす方が購入を伴い、経済的なインパクトが発生するので、一般的な商習慣の中に生きていると、必ず【足し算】のほうへ誘導されます。

結果として、お金を使って表層的な元気と引き換えに体内環境を悪化させ、ごまかしが効かなくなるとさらに【足し算】でそれをエスカレートさせる人は多いでしょう。
あるいはお金を使って住環境を複雑かつ手狭にし、気づかぬうちにフラストレーションを増加させてしまう人もまた然りです。

そして、【法人】であるあなたの体内環境に重大な影響をもたらす『基幹システム』の考え方も同様に、【足し算】で考えて会社をがんじがらめにしてしまうことが多々あります。
すでにキャパシティが限界の業務環境に、システムという異物を挿入することのダメージが計算されている組織というのは、私は見たことがありません。
「これを導入(摂取)すれば良くなる(健康になる)」という効果効能だけに注意が向き、消化吸収が見込みどおりに行える状態かどうかは考慮されません。

増大する業務量対策、情報共有不全、顧客・仕入先情報管理、拡販計画策定 etc.
各種の問題や課題の解決方法としてシステム化を検討するのは良いのですが、購入を前提にSIer(ITベンダー)に相談することは問題です。
経営トップが、本当にそこまで望んで「検討しろ」と言っているのかどうかこそ、真の検討事項のような気がします。

ある程度大きな企業になると、システム化検討の実施部隊は会社の中のIT担当者です。
経営トップがシステム化の検討を命じると、「どのSIerに発注するかを決めること」がIT担当者の責任になるのはいわば常識といってよく、そのとき社長に向かって「我が社はまだ、最適なシステム導入を検討できる実力がありません。まずそこをクリアしてからにしませんか?」などと言う命知らずは居ません。

しかし、まだ会社規模が小さくてトップとIT担当の距離が近いとか、トップ自らがシステム化の任を帯びている規模の企業はこの発想ができる強みがあり、実行できたら相当に筋肉質な運営基盤を築けるように感じられます。

●『我が社に必要なシステム』とは何か

「導入したい基幹システム」を言い換えると、「したいことができるようになるツール集」です。
それを手に入れるには、自社でしたい具体的な事柄と、実現の手順ひとつひとつが明確にイメージできることが必須です。

ドラえもんから道具の使い方を教わるまで、自分の願望がどうやって達成されるか分かっていないのび太と同じレベルではいけないのですが、「ERP」だの「システムインテグレーション」だのという言葉をまくし立てられると、その道のプロじゃない自分にその知識がないことは、当然だと感じてしまいます。

当然、専門知識を一般ユーザーが持っている必要はありませんが、こういった難しそうなフレーズは、「自社でしたい事とは何か」を自分たちで考えなくてもよい免罪符になります。
「何かよく知らんが、システムが入れば今より便利になるらしい」と社員に甘い期待を抱かせる呪文のようなものです。

SIerと話していると、アイテムが増えればそれだけ守備範囲が広がり、質も上昇する、という前提で話が進みます。
「そんなに多くの機能があっても、使いこなせないよ」
という常套文句を誰かが言い出したとしても、SIerのプレゼンテーションにはその対応まで盛り込まれています。

そして、「多機能の否定者」がいる一方、部下の統制に不安を持つ管理職などは逆に、
(システムの機能で人間関係のわずらわしさから解放されたい)
という願いを持ち、むしろ「多機能の信奉者」に回る場合もあり、クライアント内でも意見が分かれてスケジュールが遅れてきます。
特に、今使っているシステムの保守期間終了に伴って導入プロジェクトがスタートしている場合は、新システムの稼働日が決まっているので、グズグズしていると困るのは自分たちです。

そもそも、スケジュールに余裕をもってシステム導入プロジェクトを開始する会社はあまり無く、逆算してギリギリ(それも粗雑な計算だったりします)というタイミングで初めてキックオフミーティングが行われたりするので、衆知を集めてシステム化の筋道を立てるということは最初から目指していません。

キックオフまでにプロジェクトマネージャーが個別にミーティングするのは主に各部門長です。
システムで本当に実現したいのは部門長の下にいる実務担当者の目と手の働き(機能)なのですが、肝心の「目と手」の持ち主の話を聞くより、まず部門長に仁義を切って、プロジェクト開始後に無謀なジャマが入らないよう段取りを済ませたタイミングでキックオフの開催日を決めて呼び集めます。

全員が一堂に会したときには既に、大幅な変更はできず、逆にあまり細かいところまで時間をとって説明することもできないと思ったほうが良いでしょう。

クライアント側が勝手にそこまで切羽詰まっていれば、SIer側としては、クジラに銛を刺すことには既に成功しているので、あとはどれだけ損傷なく、港まで丸ごと成果を持ち帰るかという次の駆け引きに入れます。
本来はクライアント側も、それに呼応してSIerとの駆け引きに集中すべきですし、通常の製品購入やサービス導入であればそうするでしょう。

しかし上述のごとく、システム導入はむしろ社内において様々な駆け引きが発生し、特にプロジェクトマネージャーにとっては、目の前にいるSIerという存在は、収拾のつかない自社の悩みを相談する『先生』になっていたりします。

先生といっても、コンサルタントやカウンセラーなら相談受付のみに特化してくれますが、SIerはシステムの販売会社ですから、話せば話すほど追加機能が発生し、次々とカスタマイズを案内されたり、彼らのアライアンス企業を連れてきたりして、半端なく経費がふくれ上がります。

そもそも、システム販売会社が顧客のために出来ることの第一は『システムの機能を売ること』ですから、「システムを売ってくれ」と言われた時も、顧客先のプロジェクトマネージャーからお悩み相談された時も、基本的に対応は同じです。
「こうすれば御社の問題解決に役立ちます」として、問題が起きてしまった要因より、とにかく解決策(道具)の提供を重視した対症療法を心がけます。
つまり、【足し算】です。

こういう前提が背後にある以上、キックオフミーティングの席で「ノーカスタマイズ!」と百万回叫んでみても、『先生』に追加設定を示唆されると断るのは至難の業です。
プロジェクトマネージャーがその職責においてカスタマイズの申し出を断り、提案された機能が装備されなかったことで現場から突き上げられ、業績にまで責任を負わされるのが怖いからです。

●失うことで得られる大きな価値

失った事実を受け入れたがために、自分の内面を直視するチャンスが訪れることはよくあります。

たとえば、あるメーカーが倒産して、長年使ってきた器具が調達できなくなってしまったときは、経験知を総動員して適切な代替手段をルーティンワークにしてしまうのが一般的でしょう。

その際トレンドに沿って、現時点で最も合理的な方法に切り替わり、たとえば台帳が紙ベースから共有サーバへ移行されるとか、書類提出だった社内申請がイントラで可能になって手数が減るなど、様々な改善が強制的に行われたりします。

モノを失ったからこそ、培われた知力を活性化させて大きな価値を生みだせたのです。

引き継いだころの理解度では思いつけなかったことの発見や、業務環境の変化によって、同じやり方を続けるのは不便だなと感じていたことなど、いずれもきっかけがないと自発的な変化は難しいですが、『欠乏』がその役割を果たしてくれます。
自然と「使われていなかった能力や資源(リソース)の掘り起こし」にスポットを当ててくれるのです。

これは、人体になぞらえても同じことが言えて興味深いです。
ファスティング(断食)のことを調べていて面白いなと思ったのが、絶食した時のエネルギーの調達方法です。

(以下、少し人体の機能について触れますが、この文はあくまでも【法人】に対するメッセージなので、あまりそちらには深入りしません。興味のある方は適宜お調べください)

絶食すると、エネルギー供給が断たれますが、そんな中でも脳が必要とする栄養分の確保は絶対で、最優先事項になります。
最初に糖分やアミノ酸などが使われ、それがなくなると脂肪が使われますが、そういった一般的な取り崩しが終わると、『生命活動に不要な資源』に手を付け始めるそうです。

たとえばドロドロ血の『ドロドロ』や、それが固まってしまった『血管内にこびりついた塊り』などは、普段の生活をしていると健康を害する悪玉の象徴ですが、断食という非日常の環境を作りだしたときには正負が逆転して、脳の活動を支える善玉(リソース)に変身します。
そして、塊が溶かされて障害物が消えた血管の中を、「元ドロドロ」のサラサラ血液が流れるようになるとのことです。

この話、私が自分で確かめることはできませんが、科学的に考えても納得できることではあります。

もっともこれは、直接狙って起こせる作用ではありません。
たとえば、コレステロールを溶かす薬物というのはありますが、これは体組織(筋肉)にも作用してしまい、不要なものだけをピンポイントに狙うことはできないので、有り余る筋力(筋肉)があればともかく、既に筋力が衰えている老人などが常用すると日常生活で危険なことが起きかねません。

どうやら薬品という【足し算】は別の問題を引き起こすようですね。

人が無理なく自分の意識で直接できるのは、絶食(または節食)による非日常という環境を作ることだけで、あとは身体の自然な作用に委ねるのがベストな選択のようです。
『体組織そのものと、余剰な物質を正確に判別して、後者のほうだけに作用する』というのは、どんな高度な医療機器や薬品でも成し得ないことですが、それをやってのける能力を人体が備えているのなら、それを活用するのが最善でしょう。

人体以外のことにも共通しますが、すでに得ているものが、今抱えている問題の解決に役立つとすれば、それ以上新しいものを取得するのではなく、自分の中の能力や資源の活かし方を知ってそれを使う方が、実力アップと経費節約が図れて一石二鳥だと思います。

【法人】のみなさんに対しても同じです。
事業拡大に社内の動きが追いつかないとか、業績は下がり気味なのに業務は常にテンパっている、といった問題に対しても同じように、もともと持っているリソースを、いかにして活用するかというところがポイントです。

システムを導入しないとどうにもならないという声が社内で高まっていても、「すぐに処方箋を書かない優れた臨床家」を見つけてください。

ここでいう臨床家とは、SIerのことではありません。
SIerは本来、臨床家が行った処方採用の結果によって現れてくるはずですから、登場するステージが違う。
企業が自分自身で、自社にある多彩なリソースを再認識し、それらを使う具体的な計画ができてから、その実行を補完する手段の一つとしてSIerが登場した場合に限り、両者は高いレベルでWIN-WINの関係が築けます。

それについてはあとで述べますが、実際には相当早い段階でSIerが登場してしまいます。
本来は、自動化が必要な動作一つひとつが明確にイメージ出来、それに役立つ自社リソースの再認識ができから呼ぶべきで、それがまだなら呼んではいけないのです。
システムを使って行うのは業務上の「繰り返し作業」ですから、「誰が」やっている「何を」という一挙手一投足(部品)を確かめないまま、漠然とした概念だけで取り掛かってしまうと必ず失敗します。

この場合、「自社のリソースを再認識」は、『設計図を読む』と言い換えても良いでしょう。
すると、「部品を確かめ、設計図を読んでから製品を組み立てる」と、ごく当たり前なことを言っているのと同じになります。
完成イメージだけを頼りに作り始めると、天性の才能でもない限りうまくいかないのは誰でも知っているのですが、基幹システムを導入するときにはなぜかそれをやってしまうのです。

もちろん、構想の段階ではあまり細かいところまで考慮すると話が進まないので、むしろ漠然としているほうがよいと思いますが、プロジェクト開始後に構想と同じ感覚で進んでしまうと、システムは見栄えだけの空洞になり、そこを埋めるためにSIerの「ソリューション」という御宣託に基づいて「パッケージ」を買って、長年培ってきた経験知の代わりに大金を投じて「カスタマイズ」を繰り返し、複雑怪奇に仕上がったシステムのために、稼働後には大勢の社員が毎晩遅くまで残業することになります。

「ものを失うことで価値(お金)を得ることができる」ための条件として『リソースの活性化』ということを先ほどから何度か言っていますが、上記のようなことになると、「お金を失って、見合わない価値(マイナスであることもある)を背負ってしまう」結果になります。そして、それを引き起こす条件は『外から取り入れたものに頼って、リソースを埋没させてしまう』ことです。

これは、人体の健康の問題と全く同じことだと思うのですがいかがでしょう。

●システムを「摂取」する前に確認する【法人】の体内環境

はっきり言って、システム導入プロジェクトは、SIerを入れる前に行うのが理想です。
社員だけで行う導入プロジェクト(第1ステージ)をまず行い、その結果でSIerを入れるかどうかを判断するようにすると、投資効果は最初からいきなりシステム購入にお金をかけるのとは段違いに高まります。

こう言っても具体的にどういうことかわかりづらいと思うので、もう少し現実感のある言い方をします。

私は会計事務所在籍時代、常駐した企業が清算寸前まで傾いたとき、その立て直しに携わりました。
着任後半年余りの頃でしたが、その会社の実務ノウハウを活かして、新ビジネスモデルによるの基幹システム用RFP(リクエスト・フォー・プロポーザル)を作成しました。

創立間もないベンチャーというのはかなりのドッグイヤーで、半年以上いた私は早くも古参の仲間入りで、実務ノウハウのほうは既に「叩き上げ」と呼べるレベルになっていたからです。
作ったRFPは開発会社の手に渡り、誕生した新システムが使われ始めて数ヶ月後、会社は早くも回復し始めました。
もちろん、新システムによって復活したわけではなく、ビジネスモデルを改良したからですが・・

黒字転換したころ私はその会社を去っていたので、その後のことには詳しくありませんが、RFPの作成に関わった「実務担当者」として特異だったのは、1ユーザーでありながら基幹サーバの中を自由に見ることができ、どこにどんなデータが格納されているかを知っていて、それらをどう組み合わせるとどんな機能を持たせられるといった推測までが可能で、しかもそれを開発会社のシステムエンジニアと話し合って要求できる立場にありました。
自分でプログラムを書くことはできませんが、他人に思い通りのものを書かせることはできたので、そのおかげでRFPがスラスラ書けたのです。

もうひとつ特異だったのは、RFPには“実務担当者”として携わりましたが、それ以前に「立て直しプロジェクトのマスタープラン」のほとんどは私の案だったので、旧ビジネスモデル終息のガイドラインから新モデルのオペレーションまでをコントロールしていた点で、会社全体の次の展開を見据えた“実務担当兼、IT担当”という立場でした。

大企業ではそうはいかないでしょうが、小規模企業ならこのようなキャラクターに近い人材は社内から抜擢してその任に付けたり、チーム制にしたりしやすいので、さきに述べた『社員だけで行う導入プロジェクト(第1ステージ)』を行った結果、「基幹システム計画をいったん凍結する」というフットワークの軽い決断も比較的しやすいでしょう。

仮にITベンダーを入れて相談したとしても、アドバイス料を払うぐらいの働きだけしてもらって、本格導入になったらまた声をかけるような利用法を採用して良いと思います。
(この形式は小規模ITベンダーにとっても良い面があるのですが、それはまた違う機会に話しましょう)

このように、自社内のリソースに着目するところから始めれば、SIerへ一気に流出してしまう開発費分のキャッシュアウトが減少する(無くなる)ので、そのメリットは言うまでもありません。
しかし、システム導入にかける費用をケチる目的で“第1ステージの工程”を設けるわけではありませんので、今必要な業務ツール自体は必ず開発するように導いてください。

社員たちの頑張りだけでは解決できないと思って始めたシステム化の検討なので、そこで急に
「基幹システムは作らないけど、今までの意見を聞くと何とかなりそうだから、各自がもう少し自力で頑張れ」
と、ろくな対策もとらずに社員たちを突き放したりしたら、彼らの期待を裏切ることになります。

期待させた分だけこれはかなり大きな傷になります。
社員たちの失意、怒り、不安などは会社の生産性を下げる要因と言われますが、要は社内の空気が悪質なものになるのです。
腸の中で悪玉菌が優勢になったと考えれば【法人】のみなさんには実感が湧きやすいと思いますが、体内環境は確実に悪化します。社会活動レベルが下がって、みなさんがこの社会に誕生した目的と、みなさんを産み落とした創業者の願望が達成されなくなり、存在意義を失ってしまうのです。

だから、『社員だけで行う導入プロジェクト(第1ステージ)』は、「次のシステムの理想形を作るための、自前ツールの充実」として実行するのです。
そして、この時に【足し算】をやめて社内リソースの再利用に向き合った経験こそ、今後SIerを入れた本格導入の際、けた違いにコストを抑えるカギになるのです。

「自前ツールの充実」を選択した場合は、投資先がSIerではなく社員や社内設備等になりますので、どちらにせよキャッシュアウトは覚悟しなければなりませんが、利回りはそのほうが圧倒的に大きいとみるべきでしょう。
また、SIerの言い値や支払いサイトといった強制的支出ではなく、給与や賞与、又は機器類や調度品など、自社内部にかける支出なので、金額の大きさや支払いペースを制御できる点も魅力です。

この「自前ツールの充実(開発)」については、また別の機会に詳しく述べることにして、『引き算の【法人】健康学』についてはひとまず筆を置くことにします。

長々と最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。