BIツール権限を与えるな

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この言葉に出会ったのは2010年の春。勤めていた会社の基幹システム入れ替えの時でした。
システム会社(SIer)のエンジニアたちが教えてくれました。

BIというのは「ビジネス・インテリジェンス」のこと。何やら格好の良い響きです。
その中で私が聞いた製品名は次のふたつです。

DATA Nature(データネイチャー)
DATA Spider(データスパイダー)

システム内のデータを様々な切り口で抽出・集計し、多種多様な資料作りに貢献するハイテク製品です。

「組織内のデータを自分の感覚で取り出す」ということは、思いつけても実行は実に困難で、それを実現する製品を考え出せるセンスは素晴らしいと思います。

これらBIツールの製品説明はコンセプトが明快。無限の可能性を感じ、ワクワクします。

実は上記2製品を知る以前に、DR.Sum(ドクターサム)というシステムに興味を持ち、調べるだけでは飽き足らず、自腹で講習を受けたことがあります(参加費4万円は痛かった)。

そして、実際に動かしてみた私は、ショックを受けました。

体験版用の簡易なデータだけの操作とはいえ、私のデータ活用のイメージとはかけ離れていて、これでは話にならない。

それどころか、データベースの力をスポイルするとこうなる、という見本のように思えました。

データネイチャーやデータスパイダーも同じでした。
抽出の手軽さとグラフ等のビジュアル面が強調されますが、それ目的でデータを扱いたいわけではありません。

これだったら、サーバから生データだけをもらい、機能は自前で作ったほうが、その過程で業務自体の改善もできて役に立つと思いました。

私が社を離れた後も、その主旨で作っておいた野暮ったい自前ツール使用が続いたことから考えると、データベースも料理と同じく美々しく加工されるより、“素材の味”を感じられる調理法のほうが、普段の食卓(通常の業務現場)には合うのかもしれません。

後にその会社のシステムエンジニアに訊ねたところ、データネイチャーは使いづらいので起動もせず、一般ユーザーたちはツールを使うイメージが湧かないから、やはり起動したことがないと言います。

はっきり言ってBIツールは「あったら便利そう」という理由で、用途は曖昧なまま購入決定することがほとんどではないでしょうか。

少なくとも私のいた会社ではそうでした。
せっかく購入しても、その投資効率は極めて低いもの(というかゼロ)になっていました。

●BIツールを使う準備をする能力の有無

私は、BIツールを使うなら、ツールに読み込ませるデータベースをどう準備するかが重要だと考えています。

たとえば企画部門でBIツールを使う状況で、
「業界や市場の動向から、何らかの兆しをつかみ取りたい」
「インフラ(ハード)と社員の質(ソフト)の両面から自社を強化したい」
といった目的があるとします。

この場合、抽出元には社内だけでなく社外データも仕込み、アイコン選択で両者を統合して出力できる準備をします。

仕訳データなどの自社システム情報だけでなく、営業所の日報やドライブレコーダーといった顧客接点の生情報が必要です。

このほか、ターゲット地区の世帯分布のような社外の情報まで、目的のために必要と判断される様々なデータを、前もってツールに読み込ませておかなければなりません。

しかし、企画の初期段階というのは次々と新たな事態が発生するため、必要となる情報ソースが一定しづらい。

平準化を焦って無理に固定すると、酷い陳腐化が起こります。
これが、現場にとっては何よりも迷惑なのです。

理想を言えば、このように使いたいのではないでしょうか。
・広範囲な情報の随時更新
・状況に応じた適切な情報ソース選択と、抽出元の随時切り替え可能
・抽出元に応じた画面デザインの切り替わり

これを実現させようとしたら、サーバの負荷や、利用者たちの目まぐるしい頭脳の酷使が想像されます。
サーバのグレードを桁違いにアップグレードし、BIツールの専任職を大量に常駐させなければならないでしょう。

●戦略的利用と戦術的利用の違い

BIツールというのは基本的に、戦略を戦術に展開させるための仕組です。

しかし「自分はBIオペレーション担当だから、戦略の担当者だ」と言うことはできません。
なぜなら、オペレーション自体は繰返しの戦術的作業だからです。

そういう意味でBIツールは、戦略側と戦術側をつなぐものであって、私が思う『使いどころ』は、戦略側の働きのことです。

どういう働きかというと、概ね以下のとおりです。

「どの情報ソースを選び、そこからどのデータを取り出せば、戦略目的が達成できるか?」

最初にそれを決定し、次に

「それらをどんな形でBIツール内に格納すると効果的か?」

を決めることです。

さらに画面のデザイニングなどがありますが、これらはいずれも室内での働きであり、これだけでは不十分なのです。

企画を完全なものにするために、もうひとつ必須条件を満たす必要があります。

社内データの発生源である、各種作業現場への介入です。

これは、室内で自分の机に向かっているだけでは絶対に行えません。

吸い上げたデータから読み取れる不合理な現場の動きの是正や、今後の戦略上で新たに必要となるオペレーションを現場に施すためには、企画者自身が現状を知っていなければなりません。

アイデアばかりが光っていても、現場の姿を実感していなければ、所詮は絵に描いた餅になります。

ゆえに、企画部門は、頭脳系でありつつ人情にも敏感な、現場主義な人が務めるのが最適と思います。
弾の飛んでこない安全な場所からモノを言うだけの人は、一流とは言えないと思っています。

大企業の企画部門がこの現場介入をしようとしてもまず不可能ですが、比較的規模が小さな企業ならやりやすい。
もしこれを実施できれば非常に良質な仕組ができるので、戦術効率は飛躍的に上がり、業績にも反映するでしょう。

ここまで知ったうえでのBIツール導入計画なら、望む結果を実現させやすくなります。

逆に、「システム化だ、BIツールだ」と安易に考えて大金を使ったところで、いたずらに業務を複雑化させ、無用な摩擦を生みます。

ひねくりまわしてもっともらしい資料を作るヘビーユーザーが、我が物顔でハイテクツールの第一人者になり、戦略と戦術をゴチャゴチャにしたときの上司のやりづらさの温床になるケースもありますので、こういったものの扱いには十分注意してください。