成長カーブ 経験

経営者と社員が、互いに無理な背伸びをせず、現実的な関係づくりを目指すことは、前回書いた「長く愛顧してくれるファンのような社員」を作るために必要な事柄です。

 

そのため、会社は「成果報酬の基準」に加え「成長のための評価基準」を持ったほうが良い。

まずは、幻想を排除することから始めたほうが良さそうです。

「入社してすぐに華々しい活躍ができる」

「活躍に見合った高額な給与がもらえる」

入ったばかりの新人が夢を持つのは大事なことですが、「将来の夢」ならともかく、一足飛びの甘い観測を持ちすぎると、かえって不幸になりがちです。

やはり、その会社に適した形でバリバリ活躍できるほど成長するには、それなりの時間を要する。

単純作業が器用にこなせる程度の活躍はあるかもしれませんが、機械や人海戦術で賄えるようなレベルに、いつまでも新人をとどまらせたいと考える会社はありません。

個人プレーよりも組織を動かせる人材へと成長してもらいたい。
そのためには、より経営に近い戦略眼が要求される。

しかし、入社早々に会社の戦略を正しく捉えた大活躍ができる社員など、私は見たことがありません。

たとえ業界情報に通じている新人だとしても、社員としてしなければならないのは配属部署の業務です。

現状の業務内容と業界のトレンドとの間にギャップがあるなら、そこを埋めていく努力が必要です。
新人がいきなり正論を振りかざして先輩たちを否定しまくったら、人間関係が崩壊してまともに仕事が出来なくなるでしょう。

 

会社に入ってきたばかりの新人は、まずは社内知識を得ることが大切。
周囲もそれを望むはずです。

企画系の仕事に就き、シャープかつスマートに働く自分を夢見ていても、入社直後にそれが叶う可能性は低いでしょう。

仮に「企画」と名の付く部署に配属されても、下積みのつまらない仕事からスタートするはず。

 

普通の新人は営業のあいさつ回りや、目立たない管理部門など地味なポジションから、というのが一般的な姿だと思います。

つまり、最初は地道な「繰返し作業」に従事することがほとんどでしょう。

 

まずは、会社の仕事の中でも特に「戦術」の分野で成長し、やがてその効率を上げるために「仕組」を担う。
そこで「戦略」との関連性に気づけるとさらにレベルアップする。

 

ということで、会社に入った新人はおおむね、「戦術」→「仕組」→「戦略」と、3つの区分けの中で順に成長するので、3つの成長カーブ(Sカーブ)を描くものとしてみます。

こちらの図表に示してみました(図表4)

3stage-normal

戦術→戦略の3つのステージ

 

戦術は初期ステージ「S」。仕組は中期ステージ「SS」。そして後期ステージの戦略は「SSS」とクラス分けしました。

成長と共に、所属ステージは右へ移っていきます。

それと併せて、図の下段に展開する「成長プロセスの5段階(第5回で述べた①~⑤の区分を参照)」を『経験』⇒『経験知識』⇒『経験知性』⇒『統率性』⇒『創造性』の順にステップアップしていきます。

単純な繰り返し作業を担当している『経験』『経験知識』の時代は、効率的な作業の仕組みを構築してルール化していくレベルには無いため戦術(S)ステージの範疇にいますが、『経験知性』の段階でハイレベルな働きが可能になると仕組(SS)へステージが上がる、といった見方になります。

 

各段階を表にまとめたのがこちらです(図表5)
⇒図表5を別画面で開く

5process

この表は、各段階ごとの社員に対する期待と、社員が取り組むことで獲得できる価値(ベネフィット)を示しています。
さらに、ステップアップの課題と、成長の阻害要因を記しています。

 

最初は戦術(S)の3区分(『経験』から『経験知性(前半)』まで)です。

「一人で出来ることなんてタカが知れている」と言われます。

そして(S)ステージにいる人がしているのは、大体その「一人で出来ること」です

ラマなどでは、こういった人が大活躍をする作品がヒットすることが多い。

ストーリーが明快で作り易いからかもしれませんが、一方、作品への感情移入度の高い、リアルな(S)ステージ対象層が多いことも要因ではないかと思います。

しかし、どうせ感情移入するなら、リアルタイムで自分と重ねるのではなく、過去を懐かしむ気持ちで楽しみたいものです。

そのためには、この(S)ステージ時代を力強く駆け抜けて、(SS)(SSS)へ到達しなければなりません。

 

まずは、戦術ステージにどっぷりと浸かることになる①経験、②経験知識、③経験知性(前半)までを見ていきましょう。

 

【段階1】経験
所属ステージ [S] 活動領域 [戦術100%]
配役:ルーキー
ミッション ⇒ 「行動して知識を増やせ」

新規/中途を問わず入社早々の人、別の部署から配置換えで着任した人がここに相当します。

突き詰めると『人間関係』が主軸になるのが職場の在り様ですが、ここでは純然たる『戦力』として捉えるので、まずはその部署特有の知識習得を最重要課題と考えます。

「何がどこに置いてある」とか「Excelでこういうファイルを作っている」とか「短縮○番から×番は△△系担当者用」など、そこで働くための約束事をしっかり把握できないと、戦術者の役割である『作業』に取り掛かることができません

上司からの期待は、積極的に取り組んで行動量を増やし、次のポジションへ進めるだけの蓄積をすることです。

具体的には、最低限の知識と各種デバイスの操作を身に付けることです。

それが認められて初めて「戦力」として扱われるようになると考えると、ちょうど『試用期間』みたいなイメージでしょうか。

当然、この段階にいる期間は短ければ短いほど良い、ということになります

 

なみに、この「①経験」の頃にポイントになるのは「用語」です。

新規配属となったときに、用意されたマニュアルや資料があるなら、普通はそれを最初から順番に習得していくでしょう。

私も基本的にはそうしますが、それよりも現場で会話として使われる単語や言い回しが、どんな具合に発され、受け止められているかに注目します。

「どんな具合」なんていうと抽象的すぎますね。
そこでもう少し分解します。

「その言葉を口にする時のイントネーションや、その時の表情」
「その言葉を聞いた側の相手のリアクションや、その反応速度」
「両者のやり取りの文脈に登場する、関係部署や関係者の名前」

たとえばこの3つだけでも良いと思います。

これらを「聞き取れるもの」「見て取れるもの」「感じ取れるもの」に分類します。
そして、他の人が同じ用語を口にする時の共通点と相違点も、何となく頭に入れておきます。
もちろんメモしても構いません。

これを何回か繰り返し、用語が使われるときの大体の傾向がつかめた時点でおもむろに、ズバリとその用語について質問します。

そこまでにある程度の見通しをつけているので、単に「言葉の意味」を聞くのではなく「この現場における流れや傾向」を聞き取るための質問をするのです。

 

要は、用語の使用実績を積みたいので、経験を積んだ人と「用語を使った会話」がしたい。

 

そのときに「○○って何ですか?」だけで自分のセリフが終わってしまうようでは、文字通り話にならないのです。

知ったかぶりにならずにその用語を使って、無難なやり取りを成立させる経験を重ねていくようにします。

 

早々に相手の言語圏に入り込めた場合「習得が早い人」という印象を持たれやすい

この「初期の印象がその後を左右する実例」はこれまで何度も経験しています。

新しい現場に入った初期段階で、接触した相手に「この人、理解が早いなぁ」と思わせることに成功することは重要なポイントです。

なにせ新人ですから、その後で少しオタオタして言葉が上手く出ない場面に遭遇することもありますが、そのときに問答無用にさえぎられ、話の腰を折られるケースが激減します。

【上記ケース(問答無用にさえぎられる)の解説】

の途中で「間が空く」「言い淀む」「言葉のアヤで誤解を生む」

いずれも職場でよく起きることですが、それが新人時代だと面倒なことになりがちです。
気長に待ってくれる上司や先輩もいますが、説明や質問の途中で強引にさえぎる人も多い。

言いたいことを口に出せないまま、長々と説教された経験はないでしょうか?

「言い方を間違えただけで、そこは理解しています」

そう訂正したいのに、相手が息まいてしゃべり続けるのでそれに付き合わされ、自分の仕事が止まってしまう……
新人にありがちですね。

しかし「この新人は理解が早い」と思わせておくと、このロスはかなりの確率で回避が可能。
これによって相当な時間のムダと、心の消耗が省けます。

むろん、本当にわからないことを、無理やり知ったかぶりする必要はありません。

しかし、些細なことで『できない奴レッテル』を貼られて面倒な思いをするのはまっぴら。

私にもそんな経験があるので、型どおりのマニュアル習得と併用してこの、キーになる用語を使ったコミュニケーションを心がけるようにしました。

 

新しい業務を理解するのは重要ですが、「パーフェクトに理解する」と「わかっている状態に持ち込む」では、後者がコミュニケーションを前提にしているため、圧倒的に周囲の人たちへの良いアピールに成功します。

私はできるだけ早めに後者の状態を印象づけることを心がけています。

 

「①経験」に相当するような試用期間レベルに愛着を感じる必要はないし、雇う側だって、そこは1日も早く抜け出てほしいと思っています。

「パーフェクトに理解する」のは、もっと後でクリアすればよい課題だと割り切って、「実務上の会話が可能になること」に意識を向けてみましょう。

 

とはいえ、用語の使い方があまりにも的外れだと逆効果ですので、その点は気を付ける必要があります。

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