第3幕:経営者に感情移入するスペシャリスト

(DB一本、サラシに巻いて)

作業指示は特に無し。
申し出ればどんな業務もさせてもらえる。

外部スタッフながら、新設ベンチャーならではの環境に置かれた私は、常にAccessの教則本を傍らに置き、手当たり次第に各業務へ首を突っ込んでは、データベースをあてがってみる日々を過ごしました。

当時、戦略とか戦術という言葉には関心もなかった。
でもなんとなく、経理という戦術屋より、会社全体をどうしていくかという戦略屋の働きをするには、作業指示のない混沌とした環境こそむしろ適しているとは思っていました。

こうして私は、意識せず戦略の磁場に立って、その磁力を内包したまま社内業務の一つひとつを行っていくことになりました。

後年気づいたのですが、この感覚は、創業経営者が常に経営全般を念頭に置きながら、一つひとつの細かな作業を全て自分でしなければならない草創期のそれに近い気がします。

ということは、規模が大きくなってから入ってくる専門業務の担当者には極めて身に付きづらい感覚です。

いわんや、ある分野で『スペシャリスト』なんて呼ばれるほど経験を積んでしまうと、トップとはまるでずれたニュアンスで経営用語を使うことがある。

たとえば「在庫を持つな」

創業経営者の中にはこのセリフを聞くと、苦しかったころの戦々恐々たる記憶を蘇らせる人も多くいます。

3月に売れ行きの読み違いで大量の期末在庫が発生。置き場がない。
倉庫を借りる ⇒ 第一の刺客『倉敷料』が参戦。

(その在庫品、拙者の右側に置かせて進ぜよう)

(倉敷殿、助太刀感謝いたす)

よりにもよって、我らの宿敵『買掛金』に助太刀を申し出る。

コイツらは「必殺!・月末締め翌月払い」の使い手だ。

これに対抗するには、4月末までに「資金工面」「支払い交渉」などの技を繰り出す必要がある

一方、期末棚卸高は原価控除項目。つまり、期末在庫が多ければ多いほど利益も多く計算されてしまい、要するに税金も高くなる。

仕入に失敗しただけで、別に儲かったわけじゃないのに…

⇒ 第二の刺客『税金』が、刀の柄を叩きながらニヤリと笑って待ち受ける。

(儂に小細工は通じぬ)

コイツとの決戦(納付)は5月だ。
だが今はまず、4月の戦いに生き残らねばならぬ。

……からくも4月は勝利した。倉敷料と買掛金は片づけた。
と安堵する間もなく5月に突入。
税金は「秘技・現金納付!」でしか倒せない。

マズイ。キャッシュが足りない…
借りなければ

⇒ 第三の刺客『金利』が満を持して登場。

(完済まで腰を据えると致そう)

コイツは倒しきるのに時間がかかる。
何か月もかけて、しつこいボディブローを繰り出してくるので、こちらも足が止まり、軽快なフットワークが取れない…

……
こうして、3月から始まったドタバタが、短期借入の完済月までかかってようやく一段落、というハメになる。

在庫(というより『読みの誤り』)ひとつでここまで振り回されたが、これを切り抜けたからといって業績が上向くわけではない。こんな報われない苦労は二度としたくない……。

「在庫を持つ」という言葉を聞いて、金利支払いの痛みまでを感じながら、営業に「仕入の読みを誤るな」と諭すのが経営者。

そういう想いには全く無関心で、ただ「金利」のフレーズに反応し「当社のインタレスト・カバレッジはああだこうだ」と経営者のブレーン気取りで解説を始めるのはアカウンティングの専門家、つまり経理財務担当者です。

資金繰りで社長と一緒に肝を冷やした初期メンバーならともかく、在庫の怖さを実感していないスペシャリストには、経営者への共感的理解は困難です。

まあ、経営者への共感的理解などできなくても十分活躍できるし、転職市場では自分の専門性だけが強ければアピール度も高い。

経営者へのコミットなんて、志望動機の美文に書ければよい。
本当にコミットするかどうかは、会社に入ってから決められるのが、専門性の高い人の強みです。
うらやましい…

さて、会計スペシャリストのメッキをかぶっていた当時の私に話を戻します。 メッキのおかげで雑用係からは免れていますが、小さな会社では必然...

【データベースのトリセツ 目次】

<部下が手ごわくて困る上司>

 戦場に立とう、部下と共に

引き算で不利条件をつぶせ

BIツール権限を与えるな

パワーユーザーとは

「戦略的パワーユーザー」一覧

<部下が役立たずで困る上司>

部下扱いのセンスは学歴不問

なぜあなたの部下は、要領の悪い質問をしてくるのか?

部下の教育が「とにかく結果を出せ!」だけだった場合

システム化が、上司が嫌われる原因を生み出す

<部下とわかり合いたい上司>

DB活用は文系センス

社内カウンセラーになるためのデータベース活用術

部下の『行動記録』は、上司にわかってほしい『感情記録』

部下のデータを読む訓練のコツ

<部下が型破りで戸惑う上司>

「即戦力」は歯車ってことか?

第1幕:会計事務所からやってきた、会計を知らないスペシャリスト

第2幕:乱世に乗じるスペシャリスト

第3幕:経営者に感情移入するスペシャリスト

第4幕:オールマイティなスペシャリスト

第5幕:殻を破れ!スペシャリスト

<部下の戦略性に戸惑う上司>

ストラテジック・パワーユーザー ~ 戦略家で、且つ戦闘の達人

第1回 まずは定義しないと

第2回 IT技術者じゃなく『ユーザー』だから経験できるダメな感じ

第3回 データベースでホワイト企業を作るなら

第4回 戦略的パワーユーザーは『DBで組織を造る者』

第5回 ストラテジック・パワーユーザー

<悩む上司への1つの処方箋>

パーティーメンバーを魅了する組織理論

給与制度を使うワザ

部下の成長カーブ

評価力は上司力

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