密やかな協力者~ランダムのネスト編41

「M川は、会社に残ってていいのか?」
東京事業部で、A氏のプロジェクト担当に就いている他の事務員が、ほぼ強制的に帰宅させられ、家での勤務を強いられている状況で、M川だけが会社に残っていることを、彼の上司であるB氏が許しているのも奇妙な話だった。

「M川のパソコンはODBCドライバでサーバとつながってるから、システム室から社内使用に限定するように言われてるんですよ」
安藤がA氏に説明する。

インターフェースがガードしないむき出しのデータが、社外の環境で画面表示されるリスクを避けるためか、とまではA氏のIT知識では発想が及ばない。
ODBCドライバという単語も、生まれて初めて聞いたくらいだから、「とにかくM川のパソコンは特別性だ」ということしかわからない。

「プログラミングは会社でしかできないから、逆に俺だけは帰れないんですよ。Bさんと二人なんで息がつまちゃって」
「席外してて大丈夫か?」
「コーヒー買いに出て行ったんで、最低でも15分は戻らないです」
「Bさんが帰って来たとき、席にいないとマズイだろう。この部屋に来てからだけで、もう7、8分立つ頃だ」
A氏は立ち上がり、M川に部屋へ戻るよう促した。

「ありがとう。おかげで事情はわかった。わざわざ教えてくれて感謝するよ」
「Aさん……それで、どうするつもりなんですか?」
M川が遮るように言う。彼は立ち上がる気が全く無いようだった。

「……」
A氏には言葉が無い。
さっきM川に聞いたカウント機能の追加で、100分の60という規定がより強くなり『10回中6回までの顧客接点で商談をホットに持ち込む』という社の既定路線に基づくデータ出力は、A氏の立場をより厳しいものにする。

(まさか、会社を辞めようと考えているとは言えないしな)

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