密やかな協力者~ランダムのネスト編29

M川は、B氏率いる東京事業部が全国の事業所に配布する元ネタ作成用プログラムの一部を、窮地に立っているA氏に提供した。

「10回中6回までの顧客接点で商談をホットに持ち込む」というコンセプトに基づいて組まれたプログラムは、実績データを100分率して、60までの値にランダムで有効値をつけるというものだった。

この数値を30に変更し、計画値の元ネタを自分たちで作ればよいのではというA氏の提案に対し、M川は「有効データ値が少なすぎる」と意見した。

A氏を忌み嫌っている東京事業部長B氏に「計画値のデータとして不十分である」と見破られてしまうというのが、M川がA氏の提案を否定した理由である。

M川はB氏の直属の部下であり、彼は上司の意向に反して、A氏に手を差し伸べたのだった。

「でもさ、M川。有効データが半分だって、計画で見るのは売上高とか利益だろ。使ったデータの数なんて会議で発表してるの見たことないぞ」

M川とは特に親しい安藤が異を唱えた。
彼はかつて地方の事業所でチーフ職の経験があり、次期予算計画発表会議にも所長と共に出席していたため、その雰囲気を知っている。

「そうだよ。それにさ、実績データに1から100までの番号をつけてるみたいだけど、実績データの数なんて事業所によってバラバラじゃないか。もし会議で有効データ数を発表したとしても、ウチが3割のデータしか使ってないことなんて、誰もわからないだろう?」

安藤とは同い年の吉井も、気心の知れたM川に対し、遠慮なく切り込む。

「このプログラムはさ、Excelのシート上で走らせるんだけどな」
M川が二人に向けて解説する。
「A列には実績データの伝票番号が並んでる。それは確かに事業所によって数がまちまちだ。
で、このプログラムのとおり、右隣のB列には1(有効)か9(無効)が並ぶ。
だから吉井の言うとおり、有効データの数が会議で発表されたとしても、出席者にはそのからくりはわからない」

「だろ?」
意気込む吉井に安藤も和する。A氏も口には出さなかったがそう思った。

「実は俺もそう思ってたんで、ここのプロジェクト計画も割と簡単に筋書きができると思ってたんだけど、そうもいかなくなってきたんだ」
とM川は気がかりな発言をする。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする