戦略的パワーユーザー<7>参謀、指揮官が最初に学んだ『総説』

錯雑する種々雑多な事象の中から速やかに純粋原理を見出すこと
見出した原理に則り、現状においてまず自軍が為すべき要点を抽出すること
抽出した要点を、各戦闘単位がその置かれた立場において迅速に果たすための、最適な計画を立てること

上は、私が適当に編んだ言葉の羅列です(少し「坂の上の雲」臭がしますが)。
私が思うに、参謀職というのは非常に地味な役回りで、知恵を絞り尽くして考えたことを、さらに簡潔な命令文章の形にするまでに相当に頭脳に負荷をかけ、実戦行動に移されてからは主に他人の手柄(戦果)になるにもかかわらず、失敗した場合は自身がその責任を感じざるを得ない厳しい任務ですが、秋山真之が作戦を考えるときは、こういったことを緻密に無駄なくやっていたのではなかったかと思います。

戦争で作戦が失敗した場合、戦略目的の達成に弊害をもたらすことはもちろんですが、それにより多くの味方の人命が失われます(秋山真之は敵の人命のことも気に病んでいたようですが)。

人命がかかる数少ない実戦の機会に遭遇したとき、参謀としては「計画立案」、指揮官としては「実施部隊の統率」を、できる限り平常心で行うために普段から考え、心がけておかねばならないことを、学究の形で示したのが海軍大学校で講義された、『秋山真之戦術論集』の内容だと思います。

戦闘行為が行われる場所や天候や時間帯などの環境や、彼我の物量やそのスペック、また兵員の性格や能力、そして戦況の移り変わりなど、「実戦」にはあまりにも多くの要素が複雑に絡み合っており、おまけに「勝敗」という結果も判定員がいるわけではないので、戦闘開始から終了に至るまですべてが手探りといっても過言ではなく、自身が生きている限り、戦闘中は常に『錯雑した種々雑多な事象』のるつぼにいることになります。

そんな中、戦術担当の兵員は、自分の行為の結果が勝利につながると信じて、受けた命令をひたすら繰り返すことに集中できますが、命令を出す側にはより大きな役割が課せられます。
海軍大学校の生徒とは繰り返し動作担当の戦術者ではなく、上で述べたように参謀や指揮官など、命令を出す側の士官だということを、最初にお断りしておきます。

現代のビジネスで例えると、コールセンターでインカムを付けたオペレーターや、全国の代理店店頭で記入された申込書を入力するオペレーターなどの外注作業員ではなく、彼らを指揮するスーパーバイザーや、その上の元請け会社の社員向けとでもいえばよいでしょうか。

「実際に動くのは兵隊たちだから、連中に覚えさせとけばいいんだろ?」
ということではなく、組織力を最大に発揮させるために必死で学ぶべきは前線の兵士たちを指揮する士官たちだという認識で、陸軍士官学校や海軍大学校が作られたのでしょう。

『秋山真之戦術論集』では最初に、海軍の戦闘力は4つの形態に分けられるものとしています。
1.攻撃力
2.防御力
3.運動力
4.通信力

複雑怪奇な戦闘に関する講義ですから、「どこから手を付けるか」は悩みどころでしょうが、最大の要点はまず「海軍の戦闘力」であるようです。
テーマが一気に絞られ、学生たちは4つの「力」に意識を向けられます。
そして次に、4つの力の源泉となる要素を、2種類に分けて表現しています。
「機力」と「術力」というものです。
機械が持つ機能と、人間が持つ能力のことです。

「戦域において或る結果をもたらすのは戦闘力で、それは4種類に分類され、それらは機械の力と運用者の能力によって質の高低(効果の有無)ができる。勝敗を決するものは戦闘力であるため、戦術研究をする者においては、戦闘力の増大を図るだけでなく、その各要素の精密な力量分析に努めなければならない」
と、これは私の要約ですが、こんな具合に実力アップの指針を示したのではないかと思います。

また、4要素の比重は均等ではなく、攻撃力が「5」、防御力が「2」、運動力が「2」、通信力が「1」であるとしており、最初に軽重を明確化してあります。
艦種の知識、艦隊編成、運動方法や通信などすべての要素は、いずれも効果的に攻撃するための手段であって、それ自体が目的ではないということがよく分かります。

そうはいっても、聞き慣れぬ「機力」だの「術力」だのといった言葉が、具体的に何を示すのかを例示しなければ、その連想にとらわれて次の話が頭に入らない学生も多いだろうということなのでしょうが、講師・秋山真之はその解説も端的にしています。

例えば攻撃の機力として
「砲熕(大砲)、水雷(魚雷または機雷)、衝角(体当たり用の器具)」、
術力として
「砲術、水雷術、衝角術」。

運動の機力として
「推進機関、操舵機関」、
術力として
「運用術、機関術」
といった具合です。

これらの内訳を知り、それらが最も効果を発揮している場面の描写を聞かされ、自らも思考し、討議などをすることにより、目指すべき理想の「型」が習得できます。
「型」の組み合わせで基本戦術が構成され、机上ではありますが海軍戦術の運用を、各自が行えるようになります。
無論、実践においては運用の連続となり、基本戦術の型を繰り返すだけでは勝負になりませんが、その「応用」については「海軍応用戦術」という1節がこの書籍には収録されており、応用力についての講義もカリキュラムに織り込まれていたことが読み取れます。

応用戦術の話は別ページの掲載内容なのでその話は除くとして、実はここまでが、講義内容部分の最初の見開きに「総説」として書かれています。
全体を鳥瞰するものとして、簡潔ではあるが読み応えのある内容です。こののち、細かな解説が図入りで詳しくなされていくわけですが、どの部分を深掘りしていたとしても、原点が非常にシンプルなので回帰しやすくなります。

何より、最初の見開きだけでこれだけくっちゃべれるほど味が濃い。
1ページめくると、マーカーが引いてあります。当時の私が感銘を覚えて引いたものです。
これについて書き始めると長くなりそうなので、いったん終了します。

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