<第6回>秋山真之の出撃電文

前回、『秋山真之戦術論集』を元に戦略の姿を表現しようとしたら、書評の稿のようになってしまいました。
だから、今回は戦略を「潜在的存在」、戦術を「顕在的存在」という分け方にして進めようと思っています。

しかし、アフィリエイトのURLを貼るため書籍について調べてみると、この本は楽天では扱っておらず、amazonでは定価より高い値段でしか売られていません。在庫も少ないようですから、ほとんどの人がこの書籍を手にすることはないという前提で、もう少しこのサイトで要点を書いてしまおうと思いました。

ちなみに、私はミリタリー愛好家ではないので、軍事についての深掘りはせず、あくまでもビジネスのほうへ話を寄せていきますのでそのつもりでお付き合いください。

秋山真之といえば、日本海海戦での出撃の際に、東京の大本営に向けて発信した電文の起草者としても有名です。
「敵艦隊見ユトノ警報ニ接シ聯合艦隊ハ直チニ出動、コレヲ撃滅セントス。本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」
というアレです。私は見ていませんが、多分NHKの大河ドラマの中でも出てきたと思います。

この電文の最後に付け加えられた「本日天気晴朗ナレドモ~」が色々と取り沙汰されているのは、当時も今も変わらないようです。「意味のない美文だ」とこき下ろす人もいれば、「あれは軍令部に現場の状況を伝えるために必要最小限で済ませた名文だ」という人もいます。
日露戦争が文明開化初期の小国日本にとって、一世一代の大勝負であったことも、この一文がドラマ性を持ってしまった要因でしょう。おまけに日本海海戦は、陸戦でつかなかったこの戦争の決着をつける劇的な役割も担わされていました。

日露の国運を希う両国国民をはじめ、列強国の関心のすべてが、とがった針の先端のように、あの対馬海峡に凝縮していたわけですから、本人たちにその意思が無くても必要以上にうがった見方をされておかしくありません。

そこで、強すぎる背景を取り除いて冷静に見るため、現代に置き換えてアレンジしてみましょう。(アレ、書籍の話からドンドン逸れていく)
東京のある企業が、沖縄の波の上ビーチで、8月に野外ライブイベントを開催することになった。
那覇市内の観光客が気軽に立ち寄れる立地でもあるので、イベント目的以外の客足も期待できるが、それら浮遊傾向のある人たちの動向が読みづらい。
そんな中で企画が進み、資材搬入や物販の準備、出演者の調整などが着々と行われていよいよ当日。
成否を案じる東京の企画室に、1本の電話が入る。現場の進行スタッフからだった。
「お客さん入りましたんで、イベント開始します!」
かなりテンションが高く、忘れそうだった本部への電話を急遽思い出してかけてきた感じだったから、細かなやり取りは不可能で、「了解、頑張れ」としか言えない状態だった。

と、こんなシーンを想像してみてください。
無論、現代に置き換えれば通信手段は様々なものが準備できてしまうので、東京の企画室では沖縄の現場のリアルタイムな情報を豊富に持っているはずですが、そのへんは逆に過去へタイムスリップしていただいたとしましょう。
そのときの現場からの電話が「お客さん入りましたんで、イベント開始します!」だけだと、企画室としては現場状況の想像が困難で、次に報告を受けるときの心構えや、先んじて出すべき指示が後手に回る可能性があります。

そこで、現場からの電話が次の内容だったらどうでしょうか?
「お客さん入りましたんで、イベント開始します! 今日は快晴、予想最高気温は37度です」

それを聞いた企画室ではたとえば、
・国際通りやモノレールの駅周辺でのビラ配りを強化し、観光客の足を向けさせる動きを徹底しよう。雨が降っていなければ結構な数が見込めるはずだ。
・冷たい飲み物やかき氷が多く出るだろうから、食事場所の臨時増設や、ゴミの搬出スパン短縮などに対応する必要がある。
・熱中症防止のためのシャワーサービスと氷袋の無料配布の手配りが上手くいっているかを再確認しておこう。
・スタッフの体調管理に一層の注意を払うよう、責任者と各組チーフへ改めて指示を出そう。

など、最後の一文が加えられたことにより、遠く離れた東京の会議室に臨場感が生まれ、周辺状況への対応に気が回り始めます。

もしもこれが、社の浮沈をかけた一大イベントで、大成功に終わった場合、きっと「今日は快晴、予想最高気温は37度です」は、名言として関係者の脳裏に深く刻まれるでしょう。

でもこれは、日常業務の中の事務連絡といってもさして違和感はないと思います。
秋山真之が当日の海域の天候を知っていたのは、作戦の遂行上、当然知っておくべき情報だったので、予報官に調べさせていたためだそうで、海軍軍令部への連絡事項として付け加えたようです。

劇的状況だから、その一文に多くの人が自分の中の気持ちを乗せてしまった、という事情があっただけで、我々が日常、会社で事務を執っている状態に置き換えても、結構それに似た立ち位置で、割と近い行動を習慣的にとっているのではないでしょうか。

いずれにせよ、最後の一文が加えられたことで、現場にいない上層部が現状判断のための有力な材料を得たことにかわりはありません。
私が考える「本日天気晴朗ナレドモ~」の一文はそういうことです。

せっかくなのでもう一度リンクを貼っておきます。アマゾンのレビューの中で一人だけ、私と同じ点に触れている人がいて驚きました。この本を「戦略書」と呼び表しています。居るのですね、こういう人(私が書いたレビューではありません)。
それから、結局今回は戦略について語れませんでした。次回は本の内容に触れます。必ず。

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