<第9回>「判断」と「作業」は別担当

さて、『秋山真之戦術論集』、もう少し掘り起こしてみたいと思います。

戦闘力を構成する4つの力のうちの4番目、「通信力」についてです。
通信力の比重は戦闘力の中でも最も低く、秋山真之の差配では「1」としてあります。

通信力を構成する『機力』として、信号機、無線電信機、艦内通信機が挙げられ、『術力』としては信号術、電信術、その他通信技術となっています。

信号機は目視範囲内の他艦との通信用機器として使われます。

無線電信機は目視範囲の内/外を問わない通信用機器で、同じ海域内にいる味方への通信のほか「秋山真之の出撃電文」でも書いたように、対馬海峡から遠く離れた東京への通信にも使われました。

艦内通信機は読んで字のごとく、自艦の内部にいる乗組員への通信用で、日露戦争当時には「伝声管」といったものが使われていたようです。

<第8回>戦闘力を高める秘訣

『秋山真之戦術論集』は巻末の表示を見ると「2005年12月10日 初版発行」となっています。
私が購入したのは発刊当初でしたが、内容や価格からして、発行部数自体は少ないでしょう。
良い本ですが、今や希少価値が高いかもしれません。

ところで、攻撃力に関する論述のごく最初の部分で、当時の私がマーカーを引いたところがあります。

「攻撃力のうち、定まった形を持たない『術力』は、有形の『機力』を活用することで顕在化し、一定の成功を得るもとになるものだ」という一文です。

元の文をちょっとだけ引用すると、以下の記述です。
「攻撃力の無形的術力は有形的機力を活用して其潜力を現力に変化し或る成功を為さしむるものにして・・・」
とあります。

術力とは人的能力のため決まった形を持たず、機力とは機械の形で誰でも見て触れることができる。
秋山真之のいう術力とか機力とかいう言葉は、そういう意味を持ちます。

術力がゼロではどんなに優れた兵器を持っていても効果はゼロになり(無限大 × ゼロ = 0)、機力が小さくても術力が大きければ、高い機力を使いこなせない敵よりも、むしろ攻撃力は高くなると言っています。

<第7回>参謀、指揮官が最初に学んだ『総説』

私が思うに、参謀職というのは非常に地味な役回りで、知恵を絞り尽くした結論を、さらに簡潔な命令文章にするために頭脳に負荷をかけ、実戦行動に移った後は他人の手柄になるにもかかわらず、失敗した場合は自身がその責任を感じざるを得ない厳しい任務ですが、秋山真之が作戦を考えるときは、こういったことを緻密に無駄なくやっていたのではなかったかと思います。

戦争で作戦が失敗した場合、戦略目的の達成に弊害をもたらすことはもちろんですが、それにより多くの味方の人命が失われます(秋山真之は敵の人命のことも気に病んでいたようですが)。

人命がかかる数少ない実戦の機会に遭遇したとき、参謀は「計画立案」、指揮官は「実施部隊の統率」を、できる限り平常心で行うために普段から考え、心がけておかねばならないことを、学究の形で示したのが海軍大学校で講義された、『秋山真之戦術論集』の内容だと思います。

<第6回>秋山真之の出撃電文

前回、『秋山真之戦術論集』を元に戦略の姿を表現しようとしたら、書評のようになってしまいました。
だから、今回は戦略を「潜在的存在」、戦術を「顕在的存在」という分け方にして進めようと思っています。

ちなみに、私はミリタリー愛好家ではないので、軍事についての深掘りはせず、あくまでもビジネスのほうへ話を寄せていきますのでそのつもりでお付き合いください。

秋山真之といえば、日本海海戦での出撃の際に、東京の大本営に向けて発信した電文の起草者としても有名です。

「敵艦隊見ユトノ警報ニ接シ聯合艦隊ハ直チニ出動、コレヲ撃滅セントス。本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」
というアレです。私は見ていませんが、たぶんNHKの大河ドラマの中でも出てきたと思います。

この電文の最後に付け加えられた「本日天気晴朗ナレドモ~」の一文が色々と取り沙汰されているのは、当時も今も変わらないようです。

「意味のない装飾用の美文で、国運をかけた出撃連絡には不要(何カッコつけてるんだ)」とこき下ろす人もいれば、「あれは軍令部に現場の状況を伝えるために必要最小限で済ませた名文だ」という人もいます。

日露戦争が文明開化初期の小国日本にとって、一世一代の大勝負であったことも、この一文がドラマ性を持ってしまった要因でしょう。

おまけに日本海海戦は、陸戦でつかなかったこの戦争の決着をつける劇的な役割も担わされていました。

<第5回>秋山真之が学生に講義した戦略

『秋山真之戦術論集』という書籍があります。
近代の天才的参謀、秋山真之が海軍大学校で講義していた内容をまとめたものです。

もはや書店で見ることもなくなりましたが、私が購入したころはミリタリー本の棚に置かれているのを見たことがあります。
残念ながら「ビジネス」には分類されないようです。個人的にはしても良いと思うのですが。

この本には、歴史に名高い「聯合艦隊解散之辞(連合艦隊解散の辞)」が全文掲載されています。
日露戦争当時のアメリカ大統領が感銘を受け、自国の軍に英訳文を配布したという名文です。

この「解散の辞」はスラスラと読み下せ(る部分もあり)ますので、フムフムと読んでいて思うのは、誰もが知っている定理でありながら、日常は観念的にしか考えたりしゃべったりできないことを、論理的かつ簡潔な一言で言い表す才能です。